皆様の僕(しもべ)。

公共のざれごと

政策綱領(マニフェスト)っていうもの

あの~…。皆さん、「まち・ひと・しごと創生」って知ってます?あ、「地方創生」の方がわかるかな…。

ああ、聞いたことはあるって感じですか。そうですか。じゃ、「デジタル田園都市国家構想」ってのはどうですか?

あ、聞いたことない…。そうですか。

というわけで、上記は国レベルで推し進めている政策綱領、イマドキに横文字でいえば「マニフェスト」というものの名称となります。

これまで国が地方へ目を向けた政策としては、主なもので池田内閣の「所得倍増計画」、田中内閣の「日本列島改造論」、大平内閣の「田園都市構想」、竹下内閣の「ふるさと創生」といったものがありました。

こういったマニフェストの実施には、もちろん功罪(よかったところと悪かったところ)がありまして、有名どころの「所得倍増計画」なんかは高度経済成長に大きく寄与し、計画以上の結果を打ち出しました。また、「日本列島改造論」でいえば、工業系の地方分散と情報通信・流通ネットワークが一気に全国波及するきっかけとなったと評価されています。この2つのマニフェストは、当時としては非常に大きな国土全体へのテコ入れであって、実質的・物質的にも今の我が国のグラウンドデザインを成す基礎となったんじゃないかと評価する方もいらっしゃいます。

また、「ふるさと創生」なんかは功よりも罪という部分によく焦点があてられるマニフェストです。内容としては、各市町村に地域振興費用として自由に使えるおカネを1億円ずつ配るというもので、本当に自由に使ってよかったので、山形県のとある村はこの資金で「村営キャバレー」を作った、と「マジで!?」びっくりするようなお話もありました。よく、市町村の無駄遣いの典型的な例として語られることも多いです。ちなみに我々のまちはこれで温泉を掘りました。

この延長線上で、一番最初に書きました「地方創生」とか「デジタル田園都市国家構想」ってのがあるわけです。厳密にいえば、体系的には「デジタル田園都市国家構想」は「地方創生」という大きな枠に含まれる形になるんですけどね。

そして、「地方創生」というのは、今は亡き安倍晋三元総理が提唱したものになります。

実質的なスタートは平成27年だったかな。人口減少・少子高齢化に歯止めをかけることと合わせ、人口の東京一極集中を是正し、地方に活力を取り戻して国力の底上げを図ろう、というのが趣旨となっています。

で、当時は石破茂議員が地方創生大臣だったんですよね。その石破さんの数々の危機意識に基づく発言と、そのちょっと前に話題となった、増田寛也さんが座長を務める「日本創成会議」による『消滅可能性都市』なんて話もあって、当時は本当に危機感を持って本気でこの「地方創生」に取り組みました。同じ行政職員であれば、酒でも飲めそうです。なんか過去形みたいに書いちゃった。現在も続いてますけどね。でも、それだけ当時は熱量があった、ということです。

と、いうのも、「地方創生」以前の取組は、国が豊かであり、失敗しても痛手こそあれ、立ち直れないほどのダメージはなかった時代のものでした。しかし現在は、時代的背景が「少子高齢化」「人口減少」「経済縮小」という大変厳しいものであるため、これを失敗したら国がつぶれるという可能性を大いにはらんでいるということなんです。

この「地方創生」に伴い、国では地方の積極的な取り組みに対して数々の交付金や優秀な人材を派遣する制度などが造成されました。我々のまちも全庁あげてこの制度をフル活用し、まちの勢いを取り戻そうと躍起になりました。当時の国なんかに言わせると、「やる気のある地方は本気で応援する。やる気のないところは、そこまでだと思ってもらって構わない」みたいな話まで出ましたからね。

で、あなたのまちの結果はどうなったの?と聞かれると、人口減少は止まらないものの、ある程度以前よりも活気が戻ったかなァ、移住者は増えましたし、起業する若者もかなり出てきましたし…。国勢調査の社会増減(転入者-転出者)で見れば、うちのまちはプラスにまで回復しました。ただ、私みたいな行政職員でない住民としてみれば、「さほど変わっていない」というのが現実的な評価になるのかなと思っています。だってほとんどの住民は地域に張り付いてまちの様子を見ているわけでなく、昼間は他地域で働いていますし。自分の足元がどう変わったかとか、よーく見ないとわからないですよね。でも、それがわかるくらいのダイナミクスみたいなものがないと、我々の仕事は成功だといわれないのです。もっともっと頑張りたいと思います。

それで、今はというと、冒頭の「デジタル田園都市国家構想」ですよ。趣旨は『地方からデジタルの実装を進め、新たな変革の波を起こし、地方と都市の差を縮めていくことで、世界とつながる「デジタル田園都市国家構想」の実現に向け、構想の具体化を図るとともに、デジタル実装を通じた地方活性化を推進する』ですって。ICT分野を推して参る!という、岸田さんの肝いり政策です。

実は、前首相の菅さんの時にも、ある分野がこのように示されたんですが、ご存じですかね。「2050年カーボンニュートラル宣言」っていうんですけど。グリーン社会の実現に努めます!環境施策に力点を置きます!ってやつです。

…う~ん、地方の現場とすると、こうして首相が変わるたびに「環境」だとか「ICT」だとか、自分自身のカラーをこまごまと打ち出すのって、ホントにしらけちゃうんですよね。「地方創生」って大枠は変わっていないんでしょうけど、例えば先ほど述べた国からの交付金にエントリーする際には、今であれば「情報系・ICT、いわゆるDX(デジタルトランスフォーメーション)」の考え方がちりばめられてないと、採択されないんです。開始された当初には、「どんなことでもいいから、地方が努力をして知恵を絞った取り組みを見せてくれ」って感じだったのに。こうなると、平成27年、地方創生開始時に「うちのまちはこれでいこう!」って決めたものが、拡大展開できなくなる恐れが出てくるってことなんです。もちろん、取り組みが自走できることが前提なので、事業継続がすべて交付金だよりではないのですが、拡大して展開するときの財源の確保はしておきたいですもんね。

「俺が首相だから、これが俺の色だ!」って言いたいのはわかります。地方なんかは、首長が変わるたびにそれを経験していますから。でも、地方創生開始時に国として語っていた、「これを失敗したら国がつぶれるという可能性を大いにはらんでいる」という危機感はどこへ行ったんでしょうか。大々的に表にださなくとも、政策・施策体系的に十分に折り合うことは十分にできるはずなんですが。我々地方の現場は、混迷しています。だから先ほど過去形で書いてしまったんですよね。もう、終わった、みたいな。国家という大きなものを動かそうとするならば、ドシッと腰を据えた政策綱領を期待したいものです。

ホントになんだかなァ、というお話しでした。

では。