皆様の僕(しもべ)。

公共のざれごと

地方公務員はサラリーマンなのか?

地方の自治体職員というのは、ほぼその行政区域内に居住することが多いです。

ただ、以前のエントリーで、私のまちも中途採用職員が増えてきていると書きました。この中途採用職員をはじめとして、地域外出身者も少しずつ増え、最近ではまちなかに住まず、他市町村から通う職員もチラホラと目立ち始めました。

一方、東京やその周辺の公務員は、従前から地域外に居住する職員が通うということは普通だったようです。これは、研修などの機会で知り合った他自治体の職員さんから聞くのですが、東京圏では生まれも育ちもまったく関係無い自治体に就職する職員はまったく少数ではないと。こうした流れがだんだんと地方にも波及しつつあり、昨今の主流からすると、「公務員」という職種になれるのであれば、勤務先自治体にはあんまりこだわりはない、ということらしいんですね。まあ、考えとして十分理解できます。

ただ、我々のように、地方の基礎的自治体(市町村)の職員の業務はというと、窓口による証明書発行等のサービスや防災、福祉、教育などといった基礎的な行政サービスなどをはじめ、このまちをどうしていくのかの政策立案と、幅広く従事することになるのですが、こういった業務、中でも政策立案なんかの仕事に就くときには、そのまち、地域への帰属意識があるかないかによっては結構仕事内容に差が出てくるんじゃないのかなあ、と思うんです。

平成の大合併のとき、ある村が吸収合併されるかどうかという際、その村の村長が「村人としてのアイデンティティを村民全員に残したい」と、非常に頑張っておられたという話を聞いたことがあります。結局、その村は吸収合併されてしまうんですが、後で事情に詳しい方から聞くと、合併までの間、村職員には村長の思いがまったく伝わらず、役場内には「シラー」っとした空気が流れていたと聞きます。

なんと実は、村職員のほぼ全数に近い方が吸収する側のまちから通う職員だったそうなんですね。私も「いくらなんでも、それはうそだろ?」と確認したところ、その村の人々は昔特産品を作ってとなりまちで販売していたんですが、ある程度財をなした後に出荷しやすいようにと、となりまちの外れに畑を買って特産品を作っていた方が多くいたと。村内で誰かがそういったことを始めると、「おお、便利じゃねえか」と、そういった流れになりますよね。そして、時代は変わってその畑に息子が家を建て…という流れだったらしいんですよ。

この話を聞いたとき、本当に「ほぇ~」っとなったのを覚えています。

きっと村長さんは悔しかったでしょうが、生活圏が2つの地域にまたがる職員たちにとっては、どうせ合併して一緒のまちになるんだし、何も変わらないと思っていたんですよね。もちろん結果的に市町村合併すること=即、誰かの損害につながる、という訳ではないので、当然悪い話というわけではないのですが、なんかこう、心がキュッとするような感じを当時私は受けました。

さて、これってどういうことかと言いますと、地方の自治体において、組織への帰属意識はあるものの、地域への帰属意識の薄い公務員、いわゆる「地方公務員のサラリーマン化」の傾向が生まれつつあるんじゃないかと思っているんです。これって実は由々しき事態です。我々のような地方の小さなまちは、地域への帰属意識をたよりに「まちおこし」とかやっているわけですから…。地方公務員の仕事をするにあたって、そこに地域性とか、風土とかのエッセンスは介在せずに、処理だけが済めばいいということは、ほぼありません。

…なんかサラリーマンが悪いみたいな語弊を生みそうですが、単なる例示としてみてくださいね。

以前のエントリーで、地元出身者の方がモチベーションが高いことがあるというお話しを書きました。それがこれ、なんですよね。自分が生まれ育ったまちなんだから、綺麗な花の一つでも咲かせてやりたい、という意気込みが彼らにはある、ということなのでしょう。

そうなんです。おらがまちをどうにかしようと思って、頑張れば頑張っただけ、休みの日に家族を連れて遊びに行けるような楽しい場所やイベントができる。退職した後も、語り合って酒を一緒に飲める仲間を増やすことができる。セレンディピティとも言える非日常がまちなかに増えていくことになるんだ、ということなんだと思うんですよね。

いずれ退職なんかしたら、我々なんてホントになんでもないただのおじいちゃんですから。その時に楽しめるまちじゃなかったら…。一体なにを楽しみに生きていけばいいんだろう。だから、現職のうちにおらがまちにいろんな色の花の咲く種をいーっぱい撒いておきたいんですよね。

ただ、ただですよ。だからと言って「地域内に住め!」とか、「地域外から通うことが悪いんだ」とかって責めている話ではないんですよ。地域への帰属意識をどう持たせるのか、の話なんです。前述の村の話でもそうですけど、これって結構今後の大きな課題なんじゃないのかしら、と思っています。

実はこんなエントリーを書くのには理由がありまして、つい最近業務上で職員同士の衝突がありまして。かなりぼやかして書きますが、原因は自治体がずっと関わってきた、とある業務に関連し、住民同士の小競り合いが発生したのです。もちろん住民の方はずっと関わっていた自治体に問題解決のため相談に来るわけです。そこで担当職員の「それは『民-民』の話なんで、聞きたくないです。そちらで解決をお願いします。うちは介入できない関係の無い話ですから。」っていう一言ですよ。言っていることは間違いではないですよ。中立な立場の公務員ですから。

で、それを聞いた前担当が「今まで我々職員が関わってきた仕事に対して、地域に住む住民だったら、そういわれてどう思うかわからんのか?相談に乗るくらいのこと仕事としてやれよ!」っていうことで、衝突です。その後も「公務員として当然の対応をしただけだよ!」「そういうもんじゃねぇだろ、バカ!」で大喧嘩と。引き継ぎでは「思い」は引き継げないとよく言いますが、そういうのを目の当たりにしちゃうと、横のつながりとか、コミュニケーションとか、それこそ「思い」とかって本当に大事なんだよなあ、って痛感しちゃうんですよね。

昔のように、このまちが好きだから、とか、自分の生まれ育ったまちで、とか、そういうことにプライオリティを置く時代じゃあなくなっていくんだろうなあ…、というのは十分理解していますよ。でもそれじゃあ地方なんかは本当に今後先細りしていくような気もするなあ…、とか、感傷のようなものに浸ってしまうんですよ。

う~ん、なんだか書いていてムズムズする話になってしまいました…。まだ言いたいことはあるにはあるんですが、長くなってしまいますので、またの機会にします。本日はこの辺で。

では。